『伊藤計劃トリビュート』電子書籍版が話題になってたので

なんだか話題になってたみたいですね

 Twitterでちょっとした話題になっているようなので、電子書籍版を作った張本人がいろいろまとめてみますね。
 ちなみに『伊藤計劃トリビュート』とは、昨年11月の文学フリマで発行した同人誌です。京大SF研の会員・OB総勢8人が参加した短編小説集。くわしくはPabooのページなんかを見ればいいんじゃないかな! あわよくば買えばいいんじゃないかな!

値段のお話

 一番話題になってたのが、「既に紙媒体の方を買ってる人は無料で電子書籍版もプレゼントするよ」って仕組みでした。本の内容よりもそっちの方が話題になってるのはちょっと悔しいですが。
 今回電子書籍版を出すにあたって参加者でいろいろ話し合ったんですけど、一番の焦点が価格設定でした。電子書籍版は紙媒体に比べて加筆修正が加えられたりしてるとはいえ、内容的には紙媒体とほぼ同等のものです。なのに紙媒体と値段が違うのってどうなんだろう、という思いがありまして。小説や漫画、音楽みたいな商品って、基本的にはその中身、「コンテンツ」にお金を出してると思うんですよ。もちろん中には装幀だとかに価値を見いだすビブリオマニアの方もいらっしゃるわけですが、メインストリームではない。だから、中身が同じなら値段も同じでいいんじゃないのかなあ、というのが僕個人の考えです*1
 さらにもう一点、同じところから出てくる問題なんですが、同等のコンテンツなのに、媒体が違うだけで二重に代金を支払うのっておかしくないかという問題もあります。もちろん原価の問題などもありますし、「1媒体を購入すれば、他の媒体はすべて完全に無料」というのはちょっと無理があるかもしれませんが、割引くらいはあっていいんじゃないのか、と。
 というわけで、電子書籍版については「価格は紙媒体と同等」「紙媒体を持ってる人は無料」という2点で、参加者の間で結論づけました。後者については「割引でいいんじゃないの」という意見もあったのですが、システム的にかなり面倒なことになりそうなので、スパッと無料でいいじゃないかということで。なにも利潤の追求のみを求める営利法人でもない、単なるサークルなわけですし。
 実際にやってみると結構評判がよく、Twitterでもいくつか言及されているのを目にしました。

しかし書籍購入者には電子版を無料サービスという『伊藤計劃トリビュート』の姿勢は、ぜひとも出版社各社に見習ってほしい。購入者認証システムはこの方式でいいんじゃないでしょうか。

https://twitter.com/nzm/status/215055081580662784

 ただ、同人誌ならともかく出版社がこれをやろうとすると、いろいろ問題もあるようで。

「紙本購入者は電子本無料」って、考えたけれど、「紙本の割引と見なされるかもしれないから、公取に確認しないと危ない」と営業さん言われたのだが、実際のところどうなんだろう。『伊藤計劃トリビュート』はどういうやり方になったんだろう。

https://twitter.com/mashcosan/status/215073858045222913

 再販制度との絡みもあって、なかなか難しいみたいですね。まあそれに、材料費のかからない電子書籍とはいえ、労務費や経費は普通にかかるわけですから、無料というのは理想主義的かな、と。

認証のお話

 「紙媒体購入者は無料」と言うのは簡単ですが、実装するとなると結構骨が折れます。どうやって紙媒体を買ったかどうかを見分けるんだ、と。一番いい方法としては紙媒体の販売時にシリアルコードを添付しておいて、それを使うというのがあるでしょうが、こちとら紙媒体刷ったときに「不良在庫の山になったらどうしよう」みたいな不安しかなかったわけですし。まさか完売して電子書籍化するなんて思ってもみませんでした。なので当然シリアルコードなんてありません。
 あるいは書籍版の写真を撮ってメールで送れば、確認でき次第ダウンロードURLを送るよ、という方式も考えられます。Facebookの本人認証プロセスなんかで使われる手口ですね。これの欠点は時間がかかることと、手間がかかることです。貰う方からすれば「さっさと貰いたいのに向こうの認証待ちでダウンロードできないぞクソが」となりますし、こちら側としても「山のように写真が送られてくるせいで認証に忙殺されてMinecraftもできねえクソが」となります。これ誰も幸せにならないじゃん。
 というわけで、「本一冊あれば一瞬で認証できて、不正もほぼ起こりえないシステム」という難題が残るわけです。要するに「本を持ってる人なら誰でも知ってるし、本を持ってない人なら絶対に分からない情報」を鍵にすればいい。で、まあ、実装したのがこのシステム。ページの一番最初の文字を鍵にしているわけです。これなら本を持ってさえいれば絶対に分かるし、本を持っていなければ絶対に分からない。しかも鍵となるページは毎回違うものが指定されるので、不正も困難です。
 これまた結構好評というか、多くの人に興味を持っていただけたようです。

京都大学SF・幻想文学研究会が発行した『伊藤計劃トリビュート』の紙版購入者への電子書籍無料ダウンロードページ。なるほど、この認証方法は面白い。このシステム欲しいなぁ: http://bi3.jp/cgi/tpi/index. … RT @nzm

https://twitter.com/kajie/status/215090649983234048

リロードすると変わるのか.電子書籍認証の決定版とは言わないが,かなりおもしろい試み.

http://b.hatena.ne.jp/hageatama-/20120620#bookmark-98479562

 このシステムは自分で思いついて、プログラムも全部自分で組み上げたので、内心ドヤァと思ってたんですが、なんと。

昔あったPCゲームのコピー防止用の説明書ロックみたいな感じ

http://b.hatena.ne.jp/isaisstillalive/20120620#bookmark-98479562

 あ、昔からあったんですね……。とんだ車輪の再発明だよ。
 まあでも、こういう感じで紙媒体を買うと電子書籍がお安くなったりなサービスが増えていけば、電子書籍大好きな僕としてもありがたいですし、広まるといいな!

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

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*1:その値段が中身に見合った適正価格かどうかはさておき。