欧文フォントの年間契約サービスを紹介するよ

前置きは読み飛ばすもの

 きのう日本語フォントの年間契約サービスについてまとめたばかりですが、今日は欧文フォントについて。日本語フォントはモリサワやフォントワークスなど、さまざまなファウンダリが年間契約サービスを提供していて、そういった形態がかなり根付いてきていますが、世界的に見れば意外と珍しい事例なのかもしれません。欧文フォントに関しては長い間モリサワパスポートやフォントワークスLETSのようなパッケージもなく、1書体ずつ購入していくというのが主流にして唯一の選択肢でした。しかし、調べてみるとここ1年ほどで事情が変わってきているようですね。まだわずかではありますが、サブスクリプションを提供する会社が出始めてきています。

TypeKit

 TypeKitとはAdobeが運営するWebフォントサービス。ここ数年で急激に勃興してきたWebフォント業界ですが、TypeKitは2009年にスタートしており、どちらかというと古参に分類されるサービスです。このTypeKitなんですが、Web上での表示でなく、自分のPCにフォントをダウンロードして使用もできるという新サービスを、昨年秋から開始しています。
 費用はかなり手ごろで、最安のプランだと年額49.99ドルでフォントのダウンロードが可能です。月額ではなく年額なことに注意。月額換算するとたったの4ドルです。え、安くね? ただし、それだけ払えば無尽蔵にダウンロードしまくれるかというとそうではなく、49.99ドルのプランだと「ダウンロードできるのは100書体まで」という制限がついています。ちなみに一つ上位の99.99ドルのプランだと、制限は200書体に緩和されています。1ファミリーで10書体以上あるフォントも珍しくない以上、上限が100書体というのは結構厳しいようにも感じられますが、この制限は例えばモリサワのSelect Packのような、「一度選んだ書体は取り消しできない」という仕組みではありません。一度限界までダウンロードした状態で別のフォントが使いたくなったのなら、ダウンロード済みのフォントを削除すれば、別のフォントが新たにダウンロードできるわけです。つまりは「同時に使用できるのは100書体まで」ということ。そう考えると100書体という制限もそこまで問題ではない雰囲気が。
 フォントのダウンロード方法ですが、AdobeのCreative Cloudというソフトを仲介します。Adobeのソフトと聞くと、また途方もない料金を取られるんじゃないかと身構えそうになりますが、これは単なるフリーソフト。ダウンロードしたいフォントをTypeKitのWebサイト上で選択すると、Creative Cloudが自動でダウンロード・インストールを行ってくれます。TypeKitのサイトはフォントの検索もしやすく、同じファミリーの書体をすべてまとめてダウンロードできたりなど、かゆいところに手が届く作りになっているのが好感触です。
 ちなみに、Creative CloudといえばAdobeの提供しているサブスクリプションの名前でもありますよね。月額4980円でPhotoshopやIllustratorなど、Adobeの全製品が使用できるプランです。それに加入している人であれば、TypeKitのサービスは無料で使うことができます。ただでさえ安い安いと思っていた月額換算4ドルが、とうとう0ドルになりました。素晴らしいですね。
 なお、Webフォントとして使える書体のすべてがPCでも使用可能なわけではなく、たとえばFutura PTファミリーを例に挙げると、Webフォントとしては10書体が用意されているものの、そのうちダウンロードも可能なのは4書体のみ。とはいえダウンロードできる書体をすべて数え上げてみたところ、1100書体以上と結構な数字にはなります。「対応するフォントはさらに増えます」とのことなので、もしお目当てのフォントがダウンロード未対応でも、待っていればいつの日か、ということもあるのかも。
 使用可能なファウンダリも、LinotypeやITCといった超定番こそないものの、AdobeやURW++、FontFontなど有名どころが揃っています。また、Proxima NovaやMuseo、Clavoなどの流行りのフォントが使えるのもうれしいところですね。

ダウンロード可能書体
200ファミリー1100書体以上
書体例
Myriad Pro、Garamond Premier Pro Display、Futura PT、Proxima Nova、Museo Slab
ダウンロード方法
Creative Cloud経由でWeb上から選択
制限
同時使用は100書体まで
価格
49.99ドル~/年
Webサイト
https://typekit.com/

Fonts.com

 Fonts.comもWebフォントのサービスなのですが、こちらは海外勢には珍しく日本の書体にも対応しているのが特徴。特にAXISフォントを扱っていることもあって、人気のあるサービスです。こちらもTypeKitと同じく、上位プランに申し込むとフォントのダウンロードが可能になります。日本ではどちらかというとWebフォントがPCフォントのおまけ扱いでしたが、欧米だと逆になるのが面白いところですね。
 フォントのダウンロードサービスとしてのFonts.comの最大の魅力は、なんといってもLinotypeやMonotype、ITCなどの有名ファウンダリの書体が使えること。定番中の定番と言われ、人気も高いHelveticaやFrutiger、DINやAkkoやRotisなど、全部ダウンロードできちゃうんです。ダウンロードに対応しているのがLinotype、Monotype、ITC、Bitstream、Ascenderの5社の書体だけで、その中でもTypeKitと同じくすべてがすべてダウンロードできるわけではないのですが、それでもLinotypeやMonotypeに関していえば、有名どころはほぼすべて抑えてくれています。僕も最初見たとき「夢かな?」と思いました。
 ただしそれだけすごいサービスなのですから、代償も大きいのが世の常。TypeKitが年額49.99ドルからという低価格帯だったのに対し、Fonts.comの料金はというと、驚くなかれ月額100ドルです。年額じゃないですよ。そこまで世の中都合よくはありません。一応1年間や3年間の定期購読にすると、最大で月額83.33ドルまで割引してくれるのですが、その代わり一年分を一括で支払わなければならないようです。ままならねえ……。
 Fonts.comもTypeKitと同じく、ダウンロードしたいフォントをWebサイト上で選択する方式。Skyfontsというフリーソフトが自動でダウンロード・インストールを行ってくれます。ただ、TypeKitと違ってWebサイトの検索性はお世辞にもいいとは言えません。書体の種類での絞り込みも不便で、そもそも同一ファミリーの書体を一括ダウンロードできないという不便ぶり。この辺は早く改善されるといいですね。また、TypeKitと異なり、ダウンロードできる書体に制限はありません。ただし、ダウンロードしたフォントの有効期限は1ヶ月、という制限は存在します。ダウンロードしてから1ヶ月経つとフォントは自動的に削除されるので、HelveticaやFrutigerなど常に使用する書体は1ヶ月ごとにダウンロードをし直さなくてはなりません。ただし、再ダウンロードについてはWebサイトからいちいち選択しなくても、SkyFonts単体で可能なようです。なお、一応月額40ドルの下位プランもあるにはあるのですが、こちらはダウンロード可能な書体数にも制限がかかっており、1ヶ月5書体までとなっています。
 制約も多いサービスですが、それでもLinotypeの書体が使い放題というのは、難点をぬぐい去ってあまりある魅力だと感じます。あとはお財布と折り合いがつくか、というところでしょうね。

ダウンロード可能書体
7000書体以上
書体例
Neue Helvetica、Frutiger、DIN Next、Rotis II Sans Pro、Optima
ダウンロード方法
Skyfonts経由でWeb上から選択
制限
書体の有効期限はダウンロードから1ヶ月
価格
100ドル/月
Webサイト
http://fonts.com/ja/

Google Fonts

 天下のGoogleが提供するWebフォントサービスです。こちらも例に漏れずダウンロードが可能。Google Fontsに関しては、上記2サービスとかなり性格が異なっています。第一に、Google Fontsでダウンロード可能な書体はすべてオープンソースの無料書体。LinotypeやAdobeのようなファウンダリが有料で販売しているフォントがダウンロードできるわけではありません。そのため、デザイン業界などで使われているような有名書体というのはGoogle Fontsには一切存在しないんです。乱暴な言い方をすれば、フリーフォントの集合体だと考えるとイメージしやすいかもしれません。なお、書体がオープンソースということは、もちろんサービス自体も無料です。
 とはいえ、GoogleFontsの書体の開発者の中にはMonotype社に所属するデザイナーなんかもいますし、必ずしも安かろう悪かろうというわけではなさそうです。ちなみにダウンロードの方式はFonts.comとまったく同じ。Skyfontsを経由してWebから選択してダウンロードします。別に有名書体が使いたいわけじゃなく、純粋に欧文フォントの選択肢を広げたいという場合には、有力な選択肢になり得るでしょう。

ダウンロード可能書体
600ファミリー以上
ダウンロード方法
Skyfonts経由でWeb上から選択
制限
なし
価格
無料
Webサイト
http://www.google.com/fonts

結語

 今のところ欧米のWebフォントサービスでダウンロードが可能なのは、TypeKit、Fonts.com、GoogleFontsの3つだけのようです。とはいえWebフォント業界も完全に戦国時代の様相を呈してきていますし、ダウンロードサービスもこれからさらに増えていくのではないでしょうか。FontBureauやEmigre、P22など人気が高いにもかかわらずまだダウンロードサービスの対象になっていないファウンダリも数多くあります。そういったファウンダリをいかにして取り込むかが生き残りの鍵になるのかもしれません。日本ではファウンダリが直接殴り合う形でサブスクリプションが展開されていますが、欧米ではファウンダリは一種の神輿であって、自らは手を汚す位置にはいないというのが面白いですね。
 それにしても、和文フォントについては年間契約サービスも方々で紹介されているのですが、欧文についてはさっぱり見かけません。僕もつい先日までそんなサービスは存在しないと思い込んでいたのですが、いやはや、検索はしてみるものですね。今はひたすらニヘラニヘラしながらRotis II Sans Proと戯れているところです。また何か動きがあれば、キャッチでき次第まとめていきたいですね。

欧文書体―その背景と使い方 (新デザインガイド)

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