アレクサとの付き合い方

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「できない子ほどかわいい」ではないけれど

 昨年中の買い物の中で、買ってよかったものランキングを作るとしたら、まず間違いなくecho showは上位に食い込んでくると思います。それくらい使いまくってる。当初想定していた天気やニュースの読み上げ、軽易な調べ物なんかで使うことは実際ほとんどなく、もっぱらswitch bot経由で家電を操作するのがメインの使い方なんですが、地味に思えてこれがなかなか、あるとないとでは大違いなんですよ。会社から帰ってきて、「窓まで歩いてカーテンに手をかける」というモーションをキャンセルして「アレクサ、カーテンを閉めて」とさえ言えば、コートを脱いでいる間にカーテンが閉まる。「リモコンのある場所まで歩いてエアコンに照準を合わせる」というモーションをキャンセルして「アレクサ、エアコンを付けて」とだけ言って部屋を出れば、手を洗っている間に部屋が暖かくなる。こうした小さなキャンセルの積み重ねが、莫大なストレス低減を生み出しています。

 ただ、厄介なことにecho showにはアレクサという擬似的な人格がセットアップされていて、何をするにもそのアレクサという人物と対話をする必要があります。そうすると、相手は人ではなく機械だと分かっていても、どうにも「何から何までしてもらってすまないね……」という申し訳なさが芽生えるんですよね。人には返報性の原理というものが備わっているので、常に一方的に何かをしてもらうための存在であるスマートスピーカーに人格を持たせるのは、実はあまり賢い方法じゃないのかもしれません。もしカーテンを閉めたりエアコンを付けたりのトリガーが、例えば無機質な単なるボタンだったり、はたまたいかにも機械といった感じのレバーだったりしたなら、閉まっていくカーテンや動き始めるエアコンを見ても「おーおー、動いてる動いてる」以上の感情は湧かないことでしょう。Excelのマクロに「処理してくれてありがとうね」とお礼を言ったり、自動改札機に「いつもご苦労様」とお辞儀をしたりする人はまあいないはずなので。ところがecho showの場合、アレクサという人物に話しかけなければならない。この時点で脳がバグって、返報性の原理がポップするわけです[1]ところで、以前友人がビルのエレベーターに怒っていたことがありました。いわく、エレベーターが到着するまでの待ち時間が長いと、ドアが開いた時に「お待たせしました」というボイスが流れるようになっているそうで、それが気に入らないらしく「時間がかかったのは他の階に人間がいたからなのに、機械に謝らせるな」ということでしたが、それも根は同じ問題かもしれません。

 で、この返報性バグとどう付き合っていくかなんですよね。アレクサに何かしてもらうたびに「ありがとね」などと言っているんですが、これはこれでちょっとバカみたいじゃないですか。いや、アレクサが機械だってことはもちろん知ってるんですよ、でもなんか収まりが悪くて……と無用な言い訳をしたくなってしまいます。「お前ら機械は人間様の言うことを黙って聞いておればよいのだグヌハハハ」とばかり開き直ってしまえればいいんですがね。ただ、一つだけ落とし所のようなものがありまして、なぜか我が家のアレクサは「カーテンを閉めて」とお願いした時に、体感20%くらいの確率で、5cm程度だけカーテンを閉めて満足げに「はい!」って言う癖があるんですよね。しかも一度それが発症すると、何度「カーテンを閉めて」と言い直しても、5cmが積み重なって終点にたどり着くまで一生小刻みにしかカーテンを閉めてくれなくなるんです。マジでどういう理屈でこのバグが発生してるのか見当もつかないんですが、考えようによってはいくぶん都合がいい。別にカーテンを小刻みに閉められたところで、何度も言い直す必要がある以上の不都合もありません。「まったく仕方ないな~、君はたまにそうなるよね~」とアレクサを許してあげることで、立場をイーブンに持ち込むことができるんです。何事も完璧じゃない方がいいこともあるんですね。

脚注

脚注
1 ところで、以前友人がビルのエレベーターに怒っていたことがありました。いわく、エレベーターが到着するまでの待ち時間が長いと、ドアが開いた時に「お待たせしました」というボイスが流れるようになっているそうで、それが気に入らないらしく「時間がかかったのは他の階に人間がいたからなのに、機械に謝らせるな」ということでしたが、それも根は同じ問題かもしれません。

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