Fediverseとはなにか、Mastodonとはなにか

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 この記事は、Fediverseアドベントカレンダー2024に先立って用意した記事である。というのも、Fediverseという言葉はそれなりにMastodonなどにどっぷり浸かっていないと聞き及ばないものであるうえ、そもそも「Mastodonって潰れたんじゃなかったのか」「いや復活したって聞いたぞ」「でも今はMisskeyが人気なんだろ」といった素朴な認識を持っている人も多くいることが予想される。そういう方のために、FediverseとMastodonについてもいくらかの説明をしておく必要があると感じたため、この記事を用意した次第だ。なお、この節の文章はFediverse知らずの諸氏に向けたものであるため、Fediverseアドベントカレンダーのトップページやご利用のFediverseタイムラインから来訪されたFediverseに自信ニキ各位はまるっと読み飛ばしてもらって構わない。他の人がQiitaやZennに上げているようなしっかりした記事を専門書だとすると、本記事は新書どころか『図解とマンガでスッキリわかる!中学生のうちに知っておきたいFediverseってなんだろう?』レベルの内容なのであしからず。

Mastodonとはなにか

 さて、Fediverseという言葉になじみがなくても、インターネットのオタク諸氏ならMastodonという言葉は聞いたことがあるかもしれない。しかし中には、先ほど書いたような「Mastodonはもう潰れた」「Mastodonは人が少ない」という認識を持っている方もいるだろう。しかしながら、これらの認識はどれもどえらい勘違いなので、まずはMastodonについて以下に説明していく。

 Mastodonとは、分かりやすく言えばソフトウェアの名前である。Microsoft ExcelとかAdobe Photoshopとかと同じく、Mastodonというアプリが存在する。このアプリで何ができるのかというと、サーバーにインストールすることでTwitterのようなSNSを運営することができるのだ。Mastodonというアプリはオイゲン・ロッコというドイツ人が中心となって開発されていて、誰でも開発に参加できるし無料で使用できる「オープンソース」という形態を取っている。MicrosoftやAdobeが自分たちだけで開発して、使うにはお金を払わなきゃいけないExcelやPhotoshopといったソフトと比較すると、違いが分かりやすいのではないだろうか。ちなみに、ExcelやPhotoshopのような形態は「プロプライエタリ」と呼ばれる。

 誰でも自由に無料で使用できるため、いろんな人が自分のサーバーにMastodonをインストールし、SNSを運営している。そのうちのひとつがmstdn.jpだ。もともとはぬるかるという人が個人で運営していたが、それをとある会社が引き継いだものの、技術的・金銭的な問題から運営を断念することになってしまった。これが先ほど書いた「Mastodonはもう潰れた」という誤った認識の正体だ。当時mstdn.jpは日本語圏のMastodonサーバーでも最大規模のものだったので、Mastodon=mstdn.jpという代名詞的認識がなされた結果、「Mastodonサーバーの一つであるmstdn.jpがサ終する」という話が、多くの人に「Mastodonがサ終する」と誤認されてしまった。分かりやすく言えば、「セブンイレブンの○○店が閉店した」という話を「セブン&アイHDが倒産した」と勘違いしているようなものかもしれない。

 ちなみにそのあと、mstdn.jpはサ終直前にSujitechという別の会社に拾われ、今も運営が続いている。「Mastodonがサ終して復活した」のではなく、「mstdn.jpがサ終しかけてなんとか耐えた」のが真相だ。

 ところで先ほど、いろんな人がMastodonのサーバーを運営していると書いたが、それらのサーバーはそれぞれ別のSNSということになるのだろうか。答えは概ねNOだ。もちろんそれぞれのサーバーはそれぞれの名前で運営されていて、アカウントもそれぞれのサーバーに紐づいている。例えば筆者のアカウントはびびびどんという名前のMastodonサーバーに作られているし、Mastodon開発の中心人物オイゲン氏のアカウントはMastodon.socialという名前のMastodonサーバーに作られている、といった具合だ。しかし、ここからがMastodonの大きな特徴なのだが、実は別のサーバーのアカウントであっても、Mastodonサーバーであればフォローできる仕組みになっている。つまり、筆者はびびびどんにいながら、Mastodon.socialにあるオイゲン氏のアカウントをフォローすることが可能な作りなのだ。もちろんびびびどん内のアカウントに対して行うのとまったく同じように、リプライを送ったり、postをいいねしたりも可能だ。

 このように、サーバー自体はいくつもに分散されているが、使用感としてはあたかも一つのSNSであるかのように見える。それが「分散型SNS」Mastodonなのだ。なお、Mastodonはオープンソースのソフトウェアのため、自由に使うこともできれば改造だって基本的には自由にできるし、実際に改造されたもの(フォークと呼ばれる)も少なくない。有名どころではのえる氏によるMastodonフォーク「Fedibird」などが挙げられるだろう。

Misskeyとはなにが違うのか

 MastodonがTwitterで話題になるタイミングといえば、一も二もなくTwitterの規約や仕様についてのお気持ちがバズったときだろう。Twitterを脱出するため、その代替候補として毎度のこと名前が上がるが、その際に必ずと言っていいほど同時に候補となっているのがMisskeyだ。このMisskeyについても「人が多くてにぎやか」「Skebと提携しているしエロ規制もなく絵描きにやさしい」「独特のノリがある」などのイメージを持っている人が多いと思うが、例によってどえらい勘違いなので、Misskeyについてもさらっと説明しておく。

 そもそもMisskeyとは、実はこれもソフトウェアの名前である。Microsoft WordとかAdobe Illustratorとか、なんならMastodonと同じく、Misskeyというアプリが存在するのだ。なにができるかといえばもちろん、サーバーにインストールすることでTwitterのようなSNSを運営することができる。誰でも開発に参加できるし無料で使用できるオープンソースなのもMastodonと同じだ。Mastodonと違うところを挙げるなら、他人のpostに対して絵文字を使ったリアクションをする機能がある点が一番分かりやすいだろうか。他にも気に入ったpost等をキュレーションできる機能や、ブログ機能なんかもあったりする。ちなみにMisskey開発の中心人物はしゅいろという日本人である。

 そういうわけなので、いろんな人が自分のサーバーにMisskeyをインストールし、SNSを運営している。そのうちのひとつがmisskey.ioだ。村上さんという人がもともと個人で運営していたが、規模が大きくなりすぎて現在は会社を立ち上げての運営になっている。さすがにもうお分かりだろう。上に挙げたMisskeyについてのありがちなイメージは、どれもmisskey.ioの特徴ないし偏見だ。misskey.ioは日本語圏のMisskeyサーバーでも最大規模なので、Misskey=misskey.ioという代名詞的認識がなされた結果、「Misskeyサーバーの一つであるmisskey.ioはにぎやかでオタクにやさしい」という話が、多くの人に「Misskeyはにぎやかでオタクにやさしい」と誤認されてしまったのだ。「ローソンの○○店はアニメコラボ商品とかを大量に仕入れてくれてオタクにやさしい」という話を「ローソンはオタクにやさしい」と勘違いしているようなものだろう。

 ちなみにmisskey.ioは確かにskebと提携するなど絵描きに寄り添ったサービスを提供しているが、センシティブ指定をしっかり行わないと最悪アカウントが凍結されるなど、締めるところはきっちり締めているので、各位「エロ規制のないドスケベ天国」のような誤った認識で迷惑をかけないように注意されたい。

 さて、このMisskeyだが、実はpostの送受信やフォローリムーブなどにおいて、ActivityPubというMastodonと共通の仕組みを用いている。そのため、Mastodonのサーバーに作ったアカウントでMisskeyユーザーのpostを見ることもできるし、MisskeyサーバーのアカウントからMastodonユーザーをフォローすることも可能だ。実際、筆者はびびびどんというMastodonサーバーを運用しているが、フォローしているアカウントの中にはMisskeyサーバーのものも少なくない。

 となると、「Mastodonは人が少ない」という意見にもおのずと疑問符がつくだろう。確かに各サーバー単位ではユーザー数は多いとは言いづらいものがある。しかし、先述したように別のMastodonサーバーやMisskeyサーバーのアカウントも、ほとんど同じSNSのような感覚でフォローできることを考えると、ことさら「Mastodonは人が少ない」とも言いづらいのではないだろうか[1]確かに小規模サーバーだと連合タイムラインの流量が少なく、フォローの新規開拓のチャネルが一つ減る、というのはあるかもしれない。ただ、大規模サーバーの連合タイムラインの流量の多さは、それはそれで使いづらくないか? とも個人的には思うが。。特にMisskeyと比べてMastodonの人の少なさをあげつらうのは、はっきり的外れとまで言ってしまってもいいだろう。そうでなくても、素直に「Mastodonには(自分と仲の良い、自分がTwitterでフォローしている)人が少ない」と言ってほしいものだ。そしてそれはMastodonの責任ではないので、Mastodonの欠点として扱うのはやめていただきたい、というのが、いちMastodonユーザー・サーバー管理人としての忌憚のない意見ってやつだ。

Fediverseとはなんなのか

 それでは、本記事最後の問いに迫ろう。Fediverseとはなんなのか、だ。語弊を恐れず、ひどく大雑把にまとめてしまえば、FediverseとはMastodonやMisskeyのような、「お互いにやり取りが可能なWebサービスの集合体」を指す言葉だ。

 例えばMastodonの各サーバーを小島だと考えると分かりやすいかもしれない。Mastodonという国があるとする。そこにはびびびどん島やMastodon.social島など、たくさんの島が点在している。それぞれの島にはそれぞれの条例があり、それぞれの島民がいるが、ActivityPubという言語で会話をする点で共通している。同じ言語を使うので、お互いに意思疎通が可能だ。Mastodon国の近くには、Misskeyという国もある。そこにもmisskey.io島などの島があるが、その国に住む人たちもActivityPub語を話しているため、Mastodon国の人間はMisskey国の人間とやり取りできる。Fediverseとは、こうしたお互いに意思疎通の可能な国の集まり、EUのような国家連合だと考えるといいだろう。

 ActivityPub語を話す国は他にもある。Pleroma国やGNU social国なんかがそうだ。もちろんこれらも国家連合Fediverseの一員だ。しかし、はるか海の向こうにあるBlueskyという大国はAT Protocol語というまったく別の言語を話しており、Fediverse各国の人間とは意思疎通ができない。東方にあるタイッツーという国も言語が違うためやり取りは不能だ。そして、かの悪の帝国Twitter(クーデターを起こした軍事政権はXという国名を自称している)も当然言語が異なる。ただし、Threadsという別の大国では、ActivityPub語を公用語に加えてはどうかという話が出ており、少しずつではあるがFediverseの各国との交流が始まっているようだ。

 とまあ、分かるんだか分からないんだかな比喩で説明をしてきたが、とりあえず今のところは「MastodonやMisskeyをひっくるめた概念がFediverse」と覚えておけば、大抵の場面では通用する。実際にはFediverseを構成するのはMastodonのようなSNSだけではなく、PeerTube(YouTubeのような動画共有サイトを運営できるアプリ)、Nextcloud(Dropboxのようなオンラインストレージを運営できるアプリ)、それどころかWordpressやDrupal(いずれもウェブサイトやブログを運営できるアプリ)まで含めた概念であること、Fediverseに使われるやり取りの仕組み(通信プロトコルという)はActivityPubだけではないことなどについてはばっさりオミットしたが、そのあたりは専門書に任せることにする。繰り返しになるが、本記事は『図解とマンガでスッキリわかる!中学生のうちに知っておきたいFediverseってなんだろう?』である。

脚注

脚注
1 確かに小規模サーバーだと連合タイムラインの流量が少なく、フォローの新規開拓のチャネルが一つ減る、というのはあるかもしれない。ただ、大規模サーバーの連合タイムラインの流量の多さは、それはそれで使いづらくないか? とも個人的には思うが。